江戸時代、庶民の間に巻き起こった「おかげ参り」。月に何百万という規模の人々が、ここ伊勢の地を訪れたと言われています。
しかし、中には病気で寝込んでしまい、ご利益を得るためにお参りに行きたくても、行けない人もいました。そんなご主人の代わりに伊勢に参ったと言われているのが「おかげ犬」。近所でおかげ参りに行くという人に連れて行ってもらったそうです。
犬のおかげ参りは、江戸時代後期に流行っていたとされ、首に道中のお金と、伊勢参りをする旨を書いたものをくくりつけて送り出したと言います。
これが「犬の代参」と呼ばれるものです。
『御蔭参明和神異記(おかげまいりめいわしんいき)』にも、「おさん」という犬がおかげ参りをしたという記述が残っています。
道行く人々は、頼まれなくてもリレー式に連れて行き、そういうことをすること自体も「徳」になるとされていたそうです。
道中ではそうした犬が来ると餌をやったり泊めてやったりして、その分のお金を少しもらっておくのですが、人によっては「これはえらい犬だ」と言って逆に足してあげたり、自分の神札ももらってきてくれるようにと、代参を頼む人もいたそうです。そうしてお金を足してくれる人の方が多かったため、首に付けたお金の袋も重くなってきます。重くて大変だろうということで、それを軽いように一枚の銀に換えてくれる人までいたそうです。
江戸時代の人たちは、そんな信仰心と温かい心に満ち溢れていたのでしょう。これぞまさしく、我々現代人が忘れかけている、古来の「日本人の心」ではないでしょうか。